「体験せにゃぁ大変じゃ」~体験型防災施設における学習支援資料の導入と防災意識の変容~

※本プロジェクトは、教育科学研究科の修士1年の必修科目であるPBLにおいて行ったものである。プロジェクトの進行のために、岡山市のイノベーションチャレンジに参加し、活動支援金を得ている。
 

~取り組み概要~

 近年頻発している自然災害を受け,国民の防災意識向上が急がれている。本プロジェクトでは,令和7年4月に運用開始された「岡山市消防教育訓練センター水難救助訓練施設」を対象に,風水害体験プログラム参加者の防災意識がどのように変容するかを調査した。
 プロジェクトでは,対象施設や,他県の防災施設への視察を経て得た知見をもとに,2種類の学習支援資料「マイ・タイムライン補助資料」「解説パネル」を作成し,提供した。
 効果検証では,体験前後の変容を捉えられるようにしたほか,提供した学習支援資料を用いる場合とそうでない場合で体験内容の違いによる防災意識の変容も測定できるようにした。結果として,体験を行うことで「被災状況の想像力」が向上することが示された。また,マイ・タイムライン補助資料の導入(マイ・タイムラインの作成に時間をかけること)によって「災害の危機感」が高まることが見出された。本プロジェクトは,体験型防災施設における学習効果を定量的に検証してその効果を示すことができた点,継続して利用できる学習支援資料を提供した点において意義がある。
 

~背景~

「防災意識をもつことの意義」
 自然災害は,地震や津波,洪水,噴火等の自然現象が人間活動に被害をもたらすことで発生する。平成23年の東日本大震災や,平成30年7月豪雨(西日本豪雨)をはじめ,日本では各地で自然災害が発生している。自然災害そのものをなくすことはできないが,平時から災害を想定し備えることで,被害の軽減(減災)は期待することができる。
Ozeki et al.(2017)は,「災害に対して日常的に,自らが被災し得る存在であることや,情報的・物的・社会的備えが必要であることを認識している度合い,また,自分や周囲の人の生命や財産,地域の文化や共同体を自ら守ろうとする程度」を「防災意識」と定義している。近年では,防災科研,学校教育機関,自治体等が「防災」「減災」を掲げ,国民の防災意識向上を促す取組が進められている。 
 岡山市には干拓地(海抜ゼロメートル地帯)が存在する。岡山市の洪水ハザードマップでは,干拓地およびその周辺(北区・南区・東区)において大きな浸水被害が想定されている(大半が3~5m,5~10m)。こうした地域特性を踏まえると,地域住民が災害リスクを理解し,状況に応じた行動選択ができるよう,防災意識を涵養することが重要である。
 

「施設との連携と解決すべき課題」

令和7年4月,岡山市に新しい防災教育施設「岡山市消防教育訓練センター水難救助訓練施設」(南区・浦安南町)(以下「対象施設」)が整備され,運用が開始された。対象施設には,消防職員が訓練に活用するエリアに加え,地域住民が風水害を体験的に学習できるエリアが併設されている。しかし,地域住民向け体験エリアは運用開始から日が浅く,教育効果を高めるうえで改善の余地がある。

当チームは,体験プログラムへ参加と観察,施設職員との協議を踏まえ,主に2つの課題を整理した。
第1に,体験のリアリティ(災害状況との近さ)の確保である。例えば「流水歩行体験」は,流れのある透明な水の中を歩くことで,洪水時の歩行困難さを体感させることを目的としている。しかし,実際の洪水では,濁水や漂流物等が存在し,体験状況と災害状況には差がある。そのため,体験を「楽しかった」「歩けた」で終わらせず,体験と災害状況との差(ギャップ)を補完する必要がある。 
 第2に,体験後に導入されている「マイ・タイムライン」(個別の防災行動計画)の活用支援である。対象施設では体験後にマイ・タイムラインを配付・紹介しているが,記入の支援は限定的である。参加者が災害時に想定される自分の状況を具体的にイメージし,体験内容と結びつけて行動計画を立案できるよう,作成の支援を設計する必要がある。
 

「他都県の体験型防災施設への視察」

 令和7年8月14日,体験型防災施設である「横浜市民防災センター」と「東京消防庁本所防災館」を視察した。視察を通じて,身体感覚を通じて理解を促す体験設計の重要性に加え,災害時を具体的に想起させる写真や映像資料が,リアリティの補完に有効であることを確認した。また,他者と話し合いながら時間をかけてマイ・タイムラインを作成することは,自分が遭遇しうるリスクを具体化し,日常生活での減災行動を意識する契機になりうると考えられた。

 

~内容~

「学習支援資料の作成と提供」
 対象施設や,他県の防災施設への視察を経て得た知見をもとに,2種類の学習支援資料「マイ・タイムライン補助資料」「解説パネル」を作成し,提供した。
「マイ・タイムライン補助資料」
 対象施設の風水害体験プログラムでは,まとめの活動として,マイ・タイムラインの作成が位置づけられている。マイ・タイムラインの作成には,自宅周辺の地理的特徴やハザードマップの理解に加え,「どの情報を見て行動を判断するか」という情報と行動の対応づけ,さらに「危険が迫る前に動く」ための予測的な思考が求められる。しかし,多くの参加者にとって,災害を「自分ごと」として捉えることは容易ではない。加えて,家庭環境や居住地域によって適切な避難行動や準備内容が異なるため,作成の見通しが立ちにくく,「これでよいのだろうか」という不安を抱きやすい。 
 そこで,マイ・タイムラインの作成を補助するための「防災チェックシート」および「防災クイズ」(以下まとめて「補助資料」)を作成し,配付した。これらを用いて,参加者が自分の状況を整理しながら,マイ・タイムラインを具体化できるようにした。なお,同資料の作成にあたっては,国土交通省発行のマイ・タイムライン検討ツール「逃げキッド」を参考にした。

「解説パネル」
 流水歩行体験における体験時と災害時の差を補完し,体験のリアリティを高めることを目的として,2種類の解説パネルを作成した。 
1種類目は,濁水中を人が歩行する場面の写真を用いた小型パネルである。参加者が透明な水で流水歩行を行う最中に,災害時との差異(濁りや視界不良等)を確認しながら体験できるように配置した。 
2種類目は,岡山市東区平島地区の災害時の状況を示す写真を用いた大型パネルである。同地区は,平成30年7月豪雨で甚大な被害が生じた地域であり,対象施設整備の背景にも関わりが深い。災害時には,水は濁り,用水路等が視認しにくく,手すりがない状況で漂流物が流れてくる等の危険性もある。大型パネルでは,平島地区の道路や住宅街,店舗の浸水状況の写真をもとに,流水歩行体験だけでは捉えにくい災害状況のリアリティを補足した。


「調査・分析方法の検討」
 本プロジェクトでは,施設における体験が参加者にどのような影響を与えるのかを明らかにすることと,当チームが導入した学習支援資料が,参加者の防災意識の変容とどのように関連するのかを把握することを目的とした。質問紙を用い,対象施設での体験前後に1回ずつ回答を依頼し,体験前後の変容を捉えた。あわせて,支援内容の違いによる差を検討するため,体験の実施条件を3種類に設定した。具体的には「従来型条件」,「マイ・タイムライン補助資料導入条件」(以下「MT条件」),「解説パネル導入条件」である。
 質問紙は,防災意識を測定する研究で使用実績のある「防災意識尺度」2)を参考に作成した。1回あたり20項目で,うち18項目は体験前後で共通,2項目は体験前後で質問内容が異なる。回答は「とてもよくあてはまる」から「まったくあてはまらない」までの6件法とし,前者を6点,後者を1点として得点化した。分析では,体験前後の変化(参加者内)と,体験の実施条件(条件間)を比較した。
 

~成果~

「効果検証(アンケートの分析)結果」
 効果検証の結果,いずれの体験の実施条件でも「被災状況の想像力」と「脅威アピール」が体験前後で有意に上昇しており,体験型防災施設での風水害体験が,防災意識の一部の指標の向上と関連していたことが示唆された。さらに,MT条件では「災害の危機感」が,解説パネル導入条件では「不安」がそれぞれ上昇した。体験の実施条件間で防災意識の変容の程度に違いがみられるかを検討するため,1要因分散分析を行ったが,体験の実施条件間には有意な差はみられなかった。
 体験型防災施設における地域住民向け体験プログラムの効果を検証した報告は日本国内外でも多くなく,本対象施設に関する体系的な検討も現時点では限られている。今回得られた結果は,対象施設のプログラム改善に資するとともに,体験型防災施設の効果検証を進める上での基礎的知見として意義がある。

「学習支援資料の提供」
 プロジェクトにおいて,対象施設で継続的に活用可能な学習支援資料を試作・提供できた。補助資料と解説パネルは,本プロジェクト終了後も対象施設で運用可能である。今後,体験内容とマイ・タイムライン作成を結びつけ,「楽しかった」で終わらせない学びと,災害時の状況の具体的イメージを支えるツールとしての利用が期待される。また,学校や公民館などの教育現場での学習ツールとして有用であり,今後は活用の場を広げていきたい。プロジェクト後,施設側からは,「説明がしやすくなった。」,「指導員の発言内容のばらつきを減らすことができた」などの肯定的な意見をいただいている。
 

参考URL

・対象施設について
https://www.city.okayama.jp/0000065938.html
・プロジェクトの活動費用元
令和7年度「学生イノベーションチャレンジ推進プロジェクト」活動報告会発表資料
https://www.city.okayama.jp/shisei/0000078100.html
 

集合写真

集合写真

大パネル

小パネル

製作した学習補助資料

担当者

太田 麗

体験せにゃぁ大変じゃ

© Okayama University

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