取組概要
本取組は、若者の社会・政治離れという問題意識から、若者と地域社会、そしてグローバル社会をつなぎ、⾃ら主体的に問題解決に取り組む市⺠を育成するという⽬標を掲げ、2021年4⽉から始まった。その後、団体名をCUBEとし、社会問題を徹底的に深掘りし、若者と地域が⼀体となって問題解決に取組むという活動を本格化した。これまでに6回のワークショップを実施し、現在7、8回⽬を準備している。
若者が⾃⽴した市⺠となり持続可能な社会の実現に貢献するためには、質の⾼い教育によるコミュニケーション能⼒、問題解決能⼒、他者と協⼒する⼒の育成が必要である。ワークショップでは、年齢を超えた多様な世代が語り合い問題の解決に取り組むことで、そのような⼒を育成しようとしている。これまで、若者の政治参加、クーデターに揺れるミャンマー⽀援、⾷品公害など多様な社会問題を取り上げた。今後も、平和と防衛、マイノリティの差別の問題などを取り上げる。
取組効果・成果
ワークショップでは、話し合いの過程で対⽴が⽣まれたり、⽭盾に気が付いたり、新たな価値観や視点を得たりする様⼦が⾒られた。参加者の中で、政治への関⼼、コミュニケーション能などが⾼まっていると期待される。参加者は多い時で、50名を超えた。⾼校⽣の参加も多い。何度も参加してくれている⾼校⽣もいる。事後アンケートには、普段考えたことがないことについて深く考えることができた、時事問題の解決の難しさを実感した、選挙に⾏こうと思ったなどの意⾒が寄せられた。特に⾼校⽣からは、普段の⽣活では触れないことについて深く考えることができたという感想があった。
活動は、地元の⼭陽新聞でも何度か取り上げられ、特に、ミャンマー⽀援については、ミャンマーからの留学⽣や実際に現地で⽀援を⾏っている⽇本⼈とネットワークを作ることができ、さらに、ワークショップに参加した⾼校⽣が授業で使う教材を開発するなど広がりを⾒せている。
SDGs達成への貢献度
ワークショップを通して、「4.質の⾼い教育をみんなに」というSDGsのターゲット
として、⼤学⽣や⾼校⽣、社会⼈の⽅たちと学校教育の枠をこえて、交流を深めたり、議論を⾏ったりすることができた。また、若者の政治参加について考えるワークショップでは、社会についてしっかりと考えて⾏動することができる市⺠となるための主権者教育に焦点を当て、⼤学⽣や⾼校⽣が普段の学校の授業の中で学習する内容から⼀歩踏み込んだ、選挙⽴候補の選び⽅や政策の⾒⽅・捉え⽅などについて考えることができた。
そして、ミャンマーについて考えるワークショップでは、「10.⼈や国の不平等をなくそう」、「16.平和と公正をすべての⼈に」というSDGsのターゲットとして、⼀⾒私たちとはあまり関係のないようなミャンマー国内の情勢について、⽇本で⽣活する私たちがどのように考えていくべきなのか、クーデターによるミャンマー国⺠の価値観の対⽴をどのように理解し、考えていけばよいかということを中⼼に議論を⾏うことができた。
新規価値創造性
私たちは答えを⾒つけることが難しい、あるいは不可能な問いに対して、年齢や世代、職業や⽴場を超えた⼈々による「話し合い」という⼿段を⽤いて積極的に取り組んできた。そして、そのような私たちの取組を通して「難しいから関わらないでおく」のではなく、「⾃分はこのように考えているけれど、他の⼈はどのように考えているのだろう。皆で話し合って確かめてみよう」という選択肢を市⺠の⽅々に新たに提⽰することができた。そして、そのような「話し合い」から、対⽴する既存の価値観を越えた新しい価値観を創造し、それによって参加者は問題に対して新たな態度で向き合うことができるようになる。参加者が、それまで持っていた⾃分の⽴場や役割に基づく考え⽅や価値観を⼀度捨て去って、問題に対する関⼼とそれを解決しようとする意欲のみによって純粋につながることで、以上のような変化が期待できるのではないかと考えている。市⺠によるこのような「話し合い」は、各地で⾏われている政策提⾔のためのワークショップなどで⾏われているが、本取組は、⾏政主導ではなく、市⺠主体、特に若者を主体とする⾃主的な取り組みとして新規性を持っており、今後その成果を実証していくことで、地域の政治やまちづくりに対して新たな提案をしていくことができると考えている。
協働性
ワークショップでは、CUBEのメンバーである岡⼭⼤学と環太平洋⼤学の学⽣が司会やファシリテーターとして参加し、⼤学⽣や⾼校⽣、社会⼈の⽅たちとともに、各テーマに関する内容を深く考えている。このように、岡⼭⼤学の学⽣だけではなく、他⼤学の学⽣や地域の⾼校⽣、地域社会の⽅たちと議論を⾏ったことで、世代ごとの多様な意⾒に触れることができ、⾃分たちが持っていた考え⽅を⾒つめ直したり、グループでの意⾒を深めたりすることができている。
また、教育学部の学部⽣対象の授業で⾏ったミャンマーについて考えるワークショップでは、私たちが企画を考察する際に、ミャンマーでサッカーチームのコーチとして⽣活されている⽇本⼈の⽅にお話を伺った。実際にミャンマーで⽣活されている⽅のお話を伺ったことで、私たちはミャンマーの厳しい現状や、クーデターが⾏われている中で、ミャンマー政府の要請のもとサッカーチームのコーチとして⽣活することの葛藤などを痛感した。私たちはこのお話をお聞きして、なんとかワークショップで参加者の⽅たちにミャンマーの現状や⽇本⼈のサッカーコーチの⽅の葛藤を伝えたい、考えてもらいたいという思いから、価値観の対⽴をめぐる問いや「⾃分が教員として、ミャンマー出⾝の⼦どもたちに対してどのような接し⽅をしたり、⾔葉かけをしたりすればよいか」という問いを設定し、参加者の⽅に議論を通して考えを深めてもらうことができた。
持続可能性
いろいろな⽅々と直接会って話をし、⾃分とは年齢も⽴場も異なる⼈と話をする貴重な機会となっている。2021年度にワークショップに参加した⾼校3年⽣が、ワークショップで学んだミャンマーの情勢に関⼼を持ち、授業で活⽤できるミャンマーの今を知るための教材を開発した。この様⼦は、地元紙でも取り上げられ、注⽬された。さらに、その⾼校⽣のうち本学に進学した者たちが、新たに本取組のメンバーに加わり、ワークショップの企画を⾏っている。
このように、本取組には、参加者が新たに企画者となり、さらに新たな参加者を呼び込むというサイクルが確⽴されつつあり、今後も継続的に展開できる⾒通しがある。本取組をこのような持続可能なものにしていくことで、若者の社会参加、政治参加を促す仕組みを地域社会の中に恒常的なものとして位置付けることができる。
本取組は、以上のような縦のつながりを作るという持続可能性の他に、空間的な広がりという持続可能性を持っている。コロナ禍で活⽤が広がったオンラインによるイベント開催という⼿法を⽤いることで、岡⼭だけではなく、全国各地から参加者を募ることができるようになった。その、広がりはSNSやいわゆる⼝コミによって、さらに広がり、新たな参加者が増えるという効果をもたらしている。社会の問題解決によって、地域を越えて若者の全国的なネットワークを構築するという期待が、本取組に向けられていると感じている。
包摂性
若者の政治参加の促進という⽬的で始まった本取組ではあるが、新規価値創造性や持続可能性の欄で述べたように、⼤学⽣に加えて⾼校⽣、そして、様々な⽴場の市⺠も参加する事業となっている。このような開かれたイベントであるため、今後はさらに多様な世代、職業、⽴場の⽅が参加できるような⼯夫をしていきたい。特に、本取組では様々な社会問題を扱うため、問題によっては、社会の⼤多数の⽅の⽬には⽌まらない問題であったり、その影響を受けるのが少数の特定の⽅だけに限られていたりすることもある。そのような問題を当事者だけのものにするのではなく、様々な⼈がその問題について考え、⾃分とのつながりを発⾒していくことができるようにする点が本取組の本質的な良さである。このように、本取組は、社会で暮らすあらゆる⼈を巻き込んでいく包摂性をその本質とするものであると考えている。
◎本取組は
2022年度岡山大学SDGs推進表彰(President Award)奨励賞を受賞しています。
地元紙で取り上げられた、ミャンマー情勢について考えるティーチイン岡山の様子
地元紙に取り上げられた、オンラインでのティーチイン岡山の様子