多彩な有機化合物を柔軟に作り分ける有機合成化学は、100年以上の歴史を有する学問です。一般的には出発原料と反応剤をフラスコ内で混合し欲しい化合物を作り出すという手法が用いられます。この際、反応剤由来の不要物(ゴミ)の生成が常に問題となります。私たちは、『有機電解合成法』と呼ばれる手法に加えて、『フローケミストリー』や『機械学習』といった技術を活用することでこの問題解決に取り組んでいます。
『有機電解合成法』とは、電気の力を駆動力とするために反応剤由来のゴミを出しにくい合成手法です。半面、不安定な化学種を上手に発生させたり、コントロールしながら使うことが難しいという欠点もありました。私たちは独自に設計・開発したマイクロフロー電解リアクターを使うことでこの難点を克服しようと考えました。この装置は、小さな反応素子に対する送液による連続的な合成を行うことで、有用な化学反応を精密に制御しながら行うことができます。
さらに、その反応条件最適化には『機械学習』を導入する試みも始めました。相性が悪いとされてきた有機合成化学と情報科学の垣根を超え、うまく活用していくことによって研究者の勘と経験に頼らない新しい有機合成化学を目指しています。