今回のSDGs Personsでは、海洋プラスチック発生抑制のための海外プロジェクトに取り組まれている藤原健史教授にお話を伺いました!藤原研究室は、JICA草の根協力事業
「カンボジア・トンレサップ湖における水上集落住民参画型プラスチック汚染対策」を2022年3月末から開始し、現地のプノンペン王立大学の協力を得て事業を進めています。プロジェクトの詳細は、以下のプレスリリースや特別講義動画(学内限定)をご覧ください。
【プレスリリース】
海洋プラスチックの撲滅を目指して、アジア最大の湖で水上集落の住民参画型プラスチックごみ分別に取り組む!
【特別講義動画(学内限定)】
海洋プラスチックごみの発生を減らせ!~発展途上国におけるプラスチック分別促進の「草の根」的取り組み~(録音)
持続可能なモノの循環システムを構築するための様々な研究
JICAカンボジア事務所でプロジェクト実習(2018年)
――はじめに藤原先生のご専門である廃棄物資源循環学分野で、どのような研究をされているのかについて教えていただけますか?
最近の研究テーマは3つありまして、1つめが
「持続可能な循環型社会を考える」、2つめが
「バイオマス廃棄物のリサイクル」、3つめが
「災害廃棄物の対策」です。
1つめの「持続可能な循環型社会を考える」の研究テーマの中に今回取り組んでいる海外プロジェクトが含まれているので、また後ほど説明します。海外プロジェクトのほかに、我々は
岡山市や岡山県において循環型社会をどのように作っていくべきかについて研究しています。
我々はつねに物質、モノと付き合っています。そのモノは使って終わるのではなく、社会の中で循環してまた製品にちゃんと戻っていくというモノの流れを循環型社会といいます。モノが岡山市で発生したなら岡山市で循環させ、岡山県で発生したなら岡山県で循環させるというように、なるべく地域で循環させたいと思っています。
食べ物に地産地消という言葉があるのと一緒で、製品をある地域で使ったらその地域でリサイクルするようなクローズドなシステムを考えていこうと。マテリアルフローと言うんですけど、物質の流れを把握し、それを数学的にこうしたらもっといい循環が出来るよというのを計画する研究をしています。
――2つめの研究テーマ「バイオマス廃棄物のリサイクル」について教えてください。
最近、電気自動車や太陽光パネルを使いましょうといった政策がありますが、それよりも
身近な動植物から生まれた再生利用可能なバイオマスを、もっと循環させた方がいいんじゃないかと思っています。
我々が取り組んでいるのは、この
岡山大学キャンパス内での循環です。非常に広いキャンパスなので草木がたくさん生えていて、落ち葉もすごくあります。食堂では残飯が出て、牧場には牛がいて糞をしますし、乗馬クラブでは馬を飼っています。いろんな種類のバイオマスが岡山大学から出ているので、じゃあこれを岡山大学の中で循環させてみようということです。1つのキャンパスですが、いろんな種類のバイオマスが季節やタイミングによって変わってきます。例えば落ち葉は冬に出てきて、草は夏に出てきますし、残飯は学期がある時に出てきて休みの時にはぐっと減りますよね。動物の糞も飼っている頭数によって変わってきます。そういう変化を吸収するとともにバイオマスからメタンガスというエネルギーをつくります。また、コンポストといってごみから肥料を作り、それを農場に返します。私としては花を作っていろんなところにいっぱい植えられたらいいなと。外から買ってこなくても、大学の中で作った花を植えればいいわけで、閉じた世界ができるのです。
せっかく大学にいるのだから、そこから出てくるたくさんのごみを大学内で循環させるシステムを考えようというのがこの研究です。
――3つめの研究テーマ「災害廃棄物の対策」について教えてください。
ハザードマップというのをご存じですか?例えば洪水が起きるとこの地域はこれぐらい沈みますよと表している地図のことで、どこの自治体もハザードマップを作っています。我々はそのハザードマップをもとにして、もしこの地域で災害が起こるとどれぐらいごみがでてきますよ、というのを事前に計算することが出来ます。事前に計算できればその対策をつくることが容易になりますよね。例えば、災害で発生するごみに対してトラックが何台必要だとか、ごみを仮に置く場所としてどれぐらいの面積が必要だとか、予測値を元に計画を立てることが出来ます。
これまで経験したことがない大災害がいざ起こった時に、市町村がどうしていいかわからず混乱してしまうことが問題になっています。2018年7月に倉敷市真備町で大規模な水害が起こりましたが、倉敷市がまさにその状況でした。普段に災害が起こらない地区で、ああいう洪水災害が起こると、市の職員は慌ててしまってどうしていいかわからなくなってしまいます。だから、
災害があったとき困らないために、我々はハザードマップをもとに、どれだけ災害ごみが出てくるのかを予測し、それに対して事前に処理の計画を立てておく、というようなことをしています。
地球規模の環境問題になった海洋プラスチックによる海洋汚染や生態系への影響
プラスチックごみの散乱
――ありがとうございました。それでは海外プロジェクトについてお話を伺いたいと思います。藤原先生は海洋プラスチックの撲滅を目指して、アジア最大の湖で水上集落の住民参画型プラスチックごみ分別に取り組まれていますが、まずは海洋プラスチック問題の現状について教えていただけますか?
現在、太平洋などの海洋全体に毎年800万トンものプラスチックが流れ込んでおり、2050年には流れ込むプラスチックの量がその時に生きている魚の全重量を超えてしまうという報告があります。プラスチックの良さというのは耐久性ですが、環境中だとそれが難分解性になり、海洋の生態系に被害を与えることがわかっており、今、地球規模の環境問題が起こっているのです。
実際プラスチックってどれぐらいの耐久性があると思いますか?例えばペットボトルが完全に分解されるまでにどれぐらいの年月がかかるでしょう?
――10年ぐらいだと思います。
450年という報告があります。おむつにもプラスチックが使われていて、ペットボトルと同じぐらいの年月がかかります。釣り糸や釣り網は完全に分解されるまでに600年、スタイロフォーム容器という保温性の良いプラスチックは50年かかります。海によく捨てられているプラスチックは、レジャー関係のプラごみや、漁業関係のプラごみが多いです。普段は不法投棄をしない人でもレジャーに行ったら容器をそこで捨てて帰ったり、魚を捕る網に穴が空くと捨てて帰ったりするんですね。
ということは、
今あるプラスチックや捨てたプラスチックのその後の責任を、我々は負えないということです。ずっと先の世代までプラスチックのお守りをしなければいけない、管理しなければならないことを意識しつつ、プラスチックと今後どう付き合っていくのかを考えなければなりません。
――魚がプラスチックを食べてその魚を人間が食べて、プラスチックが体内に蓄積されていくというような話を聞いたことがあります。
そうですね。ただ魚はそんなに大きなものは食べられないので、今おっしゃったのは
マイクロプラスチックと呼ばれる小さなプラスチックのことです。
マイクロプラスチックには2種類あって、1つは
元々大きなプラスチックが割れて細かくなり、時間とともに小さくなったものです。ペットボトルのキャップやレジ袋などの大きなプラスチックが劣化し細分化したものなので、プラスチックごみを海へ流出させないようにすれば防げます。
しかしもう1つのマイクロプラスチックは、
製品の中に最初から入れられた細かいプラスチックです。例えば皆さん歯磨きをしていますが、ある歯磨き粉の中には小さなプラスチックの研磨剤が入っています。口の中でゆすいでそれを下水に捨てると、粒子は川を下って海に入り、小さい魚が食べてしまうのです。ほかにも洗剤や化粧品など、我々の日常品の中にも非常に小さなプラスチックが入っています。それは使用後に下水処理場へ流れて行きますが、サイズが小さいために処理を通り抜けてしまい、浄化された水とともに海に流れています。
我々はどうしてもプラスチックといえばペットボトルやレジ袋などを思い浮かべますが、
今非常に心配されているのは人工的に製品に入れられた小さなプラスチックの方です。これが先ほどおっしゃっていた人間に蓄積されていくプラスチックです。研究ではこれらのプラスチックの粒子がすでに人体に摂取されているそうですが、吸収されるわけではないので排出されます。近年では、マイクロプラスチックが人体に入ってきてどのような影響を与えるのか、例えばプラスチック中に含まれる有機物や金属が人体に影響するかなどが研究されています。今のところ健康障害を引き起こすという知見は出ていませんが、もし今後出ると大変なことになりますね。
――歯磨き粉や洗剤にプラスチックが入っているなんて知らなかったので驚きました。
このようにマイクロプラスチックの流出やプラごみの不法投棄など様々な原因で海洋プラスチックの問題が起こっています。実際どこの国から多くごみがでているかというと、
中国や東南アジアです。中国は人口が多いためトータルとして排出量が多くなってしまいます。東南アジアが他の先進国と比べて排出量が多いのは、プラスチックを使った後のごみ処理が十分に整備されていないからです。
現在、海洋プラスチックごみ対策として、例えばプラスチック製品を紙製品に変えたり、生分解性プラスチックと呼ぶ、微生物の働きで分解されるプラスチックの開発が進んだりしています。ですが、もう既にたくさんプラスチックが流通していますし、過去にいっぱいプラスチックが生産されてきています。
現在、世界のあちこちにあるごみ処分場ではプラスチックが大量に残っています。有機物は時間とともに分解されますが、プラスチックは最後まで残ってしまうからです。そこに雨が降って、プラスチックが川に流れ込んで海の汚染になることは十分にあり得ます。ということは、今プラスチックの種類を変えても、過去に捨てられたものがまだまだ出てくる可能性があるわけです。なので、
プラスチックを海に捨てない、海洋プラスチックごみにしないということは、大事なことだと思っています。
そこで我々は、捨てられたプラスチックが海洋プラスチックになりそうな場所で、プラスチックのリサイクルを始めようとしています。特に、
東南アジアの発展途上国でプラスチックが川や海によく捨てられているのをなんとかしたいと思い、カンボジア王国を対象として、海洋プラスチックごみの発生源対策を行うことにしました。
ごみの分別習慣がない発展途上国の人々に、分別を習慣づける方法
カンボジア(プノンペン)の最終処分場のごみ
――なぜ東南アジアなどの発展途上国ではプラスチックが川や海に捨てられているのでしょうか?
発展途上国ではプラスチックにかかわらず、ごみを収集するサービスがもともと無いところがあるのです。日本のように自治体がごみを集めてくれるシステムがあるのは先進国だけで、海外ではごみを捨てられるのはごみの処理費用を払った人だけということになっています。そうすると低所得者はごみを回収してもらえないので、そこら辺にごみを捨てたり川や海に捨てたりという不法投棄が平常に行われるのです。だから海洋プラスチックを減らそうと思ったら、根本的に廃棄物処理の改革をしなければいけません。
皆さんは「ごみは焼却炉で燃やされているんだ」と思っていますが、
ごみを普通に燃やしているのは日本だけです。市町村が焼却施設を必ず持っているという国はほとんどないんですね。我々は高額な税金を払ってごみ処理をしてもらい、快適な生活環境を維持しているのです。ところが海外ではごみ収集にそんなにお金をかけられませんから、やっぱりお金を払った人が収集サービスの対象となることが基本ですし、焼却施設のような非常に高価なインフラをつくることもできません。近い将来にごみの焼却が基本となる国は少ないです。
とはいえ、ごみを捨てているとプラスチックの海洋ごみ化は止まりません。そのため、
海洋プラスチックになりやすい場所では、プラスチックだけでも早く回収を始めるべきじゃないかと思います。川と接していないところでは、ごみが捨てられても海に流れ込むことは少ないですが、やっぱり川に近いところに住んでいると、雨が降って流れ込むことは十分にあります。プロジェクトが対象にしている場所にも雨季と乾季があって、雨季になると水量が増え、それまであたりに散らばっていたごみを全部下流に押し流してしまいます。だから
急務の対策が必要であり、行政にお金がなくて対策が進まないのなら、住民が自分たちでプラスチックごみ分別回収をしなければいけないと思っています。
ただプラスチックの分別といっても、分別したプラスチックをどうするのかを考えておかないといけません。途上国ではNGOなどが地域の分別に協力されることがあるのですが、集めたプラスチックをどうすることもできず、結局埋立場に持っていったという話があります。分別意識だけを高めて終わるケースがあるんですね。なので、
集めるんだったら、そのプラスチックを資源化という形で戻してやらないといけません。日本では循環型社会といって、紙、金属、プラスチックなどを原料に戻すリサイクルの社会を政策で後押ししていますが、途上国にはそういうのがありませんからね。
――どのように分別の習慣がない人たちにプラスチックごみの分別回収を根付かせようとしていますか?
プラスチックリサイクルで収入が得られるようにしてあげるということです。日本だったらいろいろ教育を受けているので、「ごみは分別して出しましょう」「わかりました」で済みますが、そういう習慣が全くない人に「さあ今日から分別してください」と言ってもなかなかやってくれません。そこで
分別協力者にインセンティブが与えられる方法を検討しています。プラスチックを回収して資源化し、そこで何らかの収入があり、電力や飲料水、その他日用品などのインセンティブを分別協力者に分配する、というようなシステムです。根付かせるためには「お金になるから協力します」というきっかけが大事で、ある程度定着すれば自然と分別する習慣ができると思っています。
また、このような地区に入って
分別を根付かせるためには、単にシステムをつくるだけじゃなく、まずその村の人々の教育をしなければなりません。これを教育啓発と言い、村の人たちに普段使っているプラスチックが海洋プラスチックに結びついていることを理解してもらいます。
世界の環境をよくするために自分たちもごみの分別をしなければいけない、という理解ですね。その理解が本人たちの利害に関係していないので、そこをどう結びつけるかです。私たち日本人も「こういう時代だから、こうしないと地球温暖化は防げないのでこうしましょう」と言われているので対策をやっていますが、なぜやらなきゃいけないのかと疑問を持っている人もいると思います。なんとなくみんながやっているからやっている人もいますし、十分理解してやっている人もいます。いろいろそれぞれなんですけど、でも
知識も何もなく、分別や温暖化対策はできないですよね。やっぱり丁寧に説明をして理解を求め、それでいてやらない人は仕方ないですけど、
村民の中で共感を持ってくれる人がいれば分別に協力してくれるだろうと思っています。
プラスチックごみを減らすには、村民ひとりひとりが湖にごみを捨てる習慣への問題意識をもつこと
水上集落の風景
――研究対象地域のトンレサップ湖はどのような地域ですか?
トンレサップ湖は
東南アジアで最も大きな湖で、雨季には琵琶湖の24倍のサイズになり、乾季は琵琶湖の4倍のサイズになります。この地域は湖が広がるので、家を陸に建てると漁業をしている人は移動が大変になります。ここらの人たちの仕事といえば、魚を捕ってそれを売ることであり、そのため
湖に屋根付きの平たいボートを浮かべてそこで暮らしている人たちがたくさんいます。ボートに乗って生活している人たちが集まり、ボートをくっつけて街をつくるので、広い湖のいろいろな場所に村ができています。その中にはお店や小学校、公共施設や教会もあり、全てボートの上の建物です。移動用のボートはガソリンを使っています。このような地域ですから電気は来ておらず,バッテリーを使っています。食料品や水は陸地から入ってきますので、陸地に近いところに住み、水かさが増えて湖が広がっていくと,それに合わせて村ごと移動します。
ここの湖の水は濁っていますから、
飲料水はほぼペットボトルの水です。食べ物はカンボジアのものや,一部海外のものが売られていて,普通にプラスチックの袋に入ったものを買って食べています。生活のレベルは低いけれども、やっぱり生活の中でプラスチックはどうしても使わざるを得ませんし、特に食べ物関係は衛生上使わないといけません。そうなると、入ってくるプラスチックはあるけれど,ごみは処理をしないので(一部,プラスチックを野焼き)、出ていくプラスチックがないんですね。それらを湖に捨てています。食べ物は微生物に分解されたり魚の餌になったりして消えてしまうからいいんですが、プラスチックはずっとそのまま浮いたり沈んでいたりするわけです。雨季になれば水かさが増えて、捨てられたプラスチックは下流側に流れていきます。下流でメコン川と合流してより広いメコン川となり、プラスチックはそこから海へ流入していきます。
ごみを捨てても、雨季にごみが流され、乾季にはごみがなくなっているので、村民には川がちゃんと綺麗にしてくれるという意識なわけです。
――排泄物も湖にそのまま流しているんですか?
そうです。ボート上のお家のトイレは穴が空いているだけで、水洗といっても湖の水を甕に入れておいて、ひしゃくですくって水をかけ、湖に流してしまいます。食べ残しや台所ごみと一緒で、人間の糞尿も魚の餌やプランクトンの餌になるわけですね。昔は自然の浄化作用として微生物が最終的に分解するため、問題がありませんでした。かえってその方が魚は増え、自然と人の生活とのバランスが取れていたわけです。ですが
プラスチックという人類のつくり物によって、消滅しないごみが発生するようになりました。魚を捕るときに、捨てたプラスチックが引っかかったり、ボートで移動する際にプロペラに巻き付いたりするそうです。普段の生活で多少の影響がでているので地域の環境問題を心配する村民もいます。
捨てることに対しての問題意識がないので村民の意識の変容が必要です。
この地域をターゲットにしてなんとかここの人たちにプラスチックの問題を理解してもらい、自主的に分別するようになってもらうようにするのが、このJICA草の根協力事業「カンボジア・トンレサップ湖における水上集落住民参画型プラスチック汚染対策」です。
トンレサップ湖水上集落地域でプラスチックごみの分別回収・リサイクルの自立型システムを実装する
村落コンミューンのリーダー会議にて事業説明・ヒアリング・意見交換
――事業内容を具体的に教えてください。
このような事業を行おうとしたら、事前にちゃんと現地の了承を得ておかないといけません。そのため2022年4月に1回目の訪問をした時に、
対象国のJICA事務所に行って活動の環境を整えてもらうよう話したり、現地に伺って村の代表者の方々と話をしたりしました。みなさんに問題の提起や、何をしようとしているのかを説明し、活動の許可を取りました。また、魚を捕獲する女性たちにプラスチック投棄についてヒアリングをしたり、ジャンクバイヤーと呼ばれる、今は空き缶を集めて売っている人たちに、どこで集めていくらで売るのかなどをの聞き取りを行いました。
2022年9月に2回目の訪問をし、
実際にプラスチックの実態を明らかにするために、ヒアリング調査やごみの組成調査を行いました。ヒアリング調査として各家庭に、プラスチックの「知識」があるのか、環境問題につながるという「認識」があるのか、分別に協力する「意識」があるのかを聞いてきました。また、プラスチックが実際にどれだけ出ているのか、またどのようなプラスチックが出ているのかを知っておかなければいけませんので、我々はごみの組成調査というのをやりました。日本であれば、一般家庭からでているごみをもらって、その中の生ゴミやプラスチック、金属など細かく分けて調べます。これと同じようなことを現地でもやってきました。ただし,プラスチックを対象としているので、プラスチックだけの分類をしました。協力してくれる家庭に2つの袋を用意し、白い袋にはプラスチックを、黒い袋にはそれ以外のごみをいれてもらうよう指示しました。プラスチックを集めてくださいと言って、どれぐらい正しく分別できるかを見たいと思ったからです。集まった白い袋を開けると、空き缶が入っていることもありました。
分別について丁寧に説明するために,教育用のマニュアル作りをしようと思っています。子どもさん用の教材も漫画などを使って作っていけたらいいなと思っています。絵の得意な人や好きな人が大学にいたら是非参加してほしいですね。
また、
村民の中から分別推進をやりたい人たちを集めてチームを作り、岡山市に呼びます。日本でどのように分別しているかを見てもらったり、分別したものがどのようにリサイクルされているのかを知るために工場見学してもらいます。期間は一週間程度で、こちらから分別指導をしたり、テクニックを学ぶなどの研修を行います。このチームの人たちが中心になって村の分別を実施してほしいと思っています。
次回はまた12月に訪問する予定なので、
啓発イベントなどをしようと思っています。ある程度システムができあがったら、村民の人たちを集めて、プラスチックの知識や教育、分別システムの話をし、「1週間に2回ごみを取りに行くのでごみを分けて置いておいてください」「協力してくれたら若干ですけどいいことがありますよ」と伝えます。それから一斉に分別の施行をしようと思います。期間が短いのでまずはやってみて、どれぐらい協力してもらえるのか、どれぐらい集まるかというのを調べて、できそうかどうかを判断します。
あと、
資源化ルートの調査も平行しておこないます。現在は集めてもお金にならないボトル以外のプラスチックも、たくさん量を集まれば買い取る業者がいるかもしれません。
今回の調査で集めることができるプラスチック量が分かるので、いくらぐらいになるかを計算し、実際に売って収入を村民に還元するところまでやりたいと思っています。
資源化物回収業(ジャンクバイヤー)へのヒアリング
――ありがとうございます。プラスチックを今集める人はいないけれど、空き缶を集めて売っている人たちはいらっしゃるんですね。
空き缶はリサイクルが非常にやりやすいからです。鉄でもアルミでも、金属は熱を加えて溶かしたらインゴットと呼ばれる金属の塊にすることが容易です。鉄とアルミは磁石で選別することができるので、分けてから溶かし、原料として使うことは世界の国々でやっていることです。ですからアルミ缶やスチール缶を集め、それを売ってお金に換える仕事をする人々がいます。ところが
プラスチックについてはリサイクルが十分に普及していません。ペットボトルから何かほかの製品に変えるときには多少の技術が必要で、カンボジアの中ではまだ進んでいません。日本では我々の着ているカッターシャツやワイシャツ、スーツなどはペットボトルから作ることができ、材料をいったん溶かして繊維にし、それをまた編んで衣服にすることができます。品質の高い商品にリサイクルするには高い技術が必要ですが、現地でも単に溶かして型を使って成形加工するだけの技術であれば可能です。ただ、そうして作った商品の値段が低いため、ごみ収集しても良い収入になりません。
――プラスチックを分別したあと、処理を行う設備はカンボジアにありますか?
それがないんです。今のところリサイクルをする業者がいないので、カンボジアで集めたプラスチックを隣国のタイやベトナムに持って売るとか、それらの国から買い取り来た業者に売るなどしています。ただ国境を越えるとすごく手数料が取られます。ごみって本当は国を移動してはいけないものに入るので、国と国の間の税関でいろいろ細工をして、お金を払って通してもらっているそうです。だから買い取り価格がどうしても安くなってしまうのです。ペットボトルならぎりぎり儲けがありますがほかのプラスチックは集めてもほとんどお金にならないのでやってないと聞いています。
海外にリサイクル技術を広げようと日本の企業さんもがんばってらっしゃるようで、そこにもコンタクトを取っています。ごみの収集の世界は少しブラックなところがあり、ごみを集めてリサイクルする利権というのが暗黙にあって、誰かがごみを集めているテリトリーで個人的に集めるといろいろクレームが来るのです。その企業さんは、トラブルにならないように様子を見ながら少しずつリサイクルを進めているとのことでした。
海外でのリサイクル事業は、現地に行って工場を造ってやればいいといった簡単なものではなく、まずその場所で事業をおこなう権利の取得から始める必要があるということですね。でもごみの分別をするなら、近くにリサイクル業者がいて処理設備があることが理想であって、隣国にごみを持って行かなくても良くなるといいですね。近くでリサイクルしてくれるところを、今後も探そうと思います。
現地の先生方(王立プノンペン大学)とごみ組成調査(2022年)
本事業のシステムが世界の水上集落地域の参考として広がり、環境改善へつなげていきたい
――リサイクルシステムが定着するには非常に長い道のりになりそうです・・・。
研究は自分の部屋でやれば良いことですが、研究レベルのものを社会に実装することは難しいことです。現地で集めたデータをもとに,プラスチックがどれぐらい集まり単価何円で売れたらこのシステムは成り立つかというスタディを大学では行っていますが、それはシステム設計のところだけでして、
いざそのシステムを実際に使ってもらおうとすると、教育啓発やトレーニング、現地業者へのヒアリングや交渉など、普段の研究とは別の部分での努力が中心であることがわかり、海外協力の大変さがわかりました。サイエンスよりはエンジニアリング、エンジニアリングでもソーシャルなところが大きいですね。社会で動かすシステムを作るときに、社会科学的な要素も大きく入ってくると思います。村全体に初めて分別システムが実装され、それによって捨てられるプラスチック量が目に見えて減るようになるまでには長い道のりかなと思っています。
――環境問題を改善するためには多くの時間と労力がかかることだと改めて実感しました。
環境の分野というのはそのような分野だと思います。例えば生分解性プラスチックが開発されるのは企業の研究開発でやれますが、それを社会が認知するには、行政が普及を後押しする政策や補助金制度をつくります。それによって市民が動いてゆくわけですが、
当たり前のようになるまでに多くの人々が関わり、長い時間もかかると思います。行政が単に法律だけをつくって「こうしましょう」と言っても人々は動かないと思うんですね。日本でも役所の職員が、いろんなところで出前講座やキャンペーンを催して、市民に対し恒常的にごみ分別の重要性を説明しています。
このような取り組みがあってこそ、環境はゆっくりと改善してゆくのだと思います。
プラスチックの分別を小規模ながら海外で実践しようとしていて、うまくいく事例が作れたらよいなと思います。村民全員が参画するリサイクルシステムができれば、近くの村にもその事例が広がることになるでしょう。
世界にはトンレサップ湖のように水上に暮らす集落が多くあるので、その地域にも事例が広がっていき、環境改善につながっていくといいなと思っています。
――藤原先生、たくさんのお話をありがとうございました!
カンボジア調査トンレサップ湖現地調査のプロジェクト実習(2018年)