今回のSDGs Personsでは、岡山大学「SDGsアンバサダー」が中心となって立ち上げた団体「Global Project」の代表・創設者である山下彩奈さんにお話を伺いました!
Global Projectは、「国境を越えて幸せを輸出入」をモットーに、留学生と日本人学生がお互いの文化を共有しながら交流できる場を創る活動を行っています。 2024年4月に、山下さんが中心となって設立しました。これまで、茶道体験や少林寺拳法体験、ハロウィンパーティーなど、15回以上イベントを主催しており、のべ約300名の学生が参加しました。2025年度には新たに約45名の新規メンバーを迎え、さらなる発展が期待されています。詳細はこちらの公式Instagramをご覧ください。
※「SDGsアンバサダー」とは、岡山大学SDGsについて知り、それを出来るだけ多くの人に共有し、自らの興味・関心に基づきSDGsを「自分ごと」として取り組むことを目的とした、大学公認の制度です。詳細はこちらのホームページをご覧ください。
海外のお菓子を片手に仲を深めるメンバー
0から創り上げた異文化交流の場
――最初にGlobal Projectの活動内容について教えてください。
私たちGlobal Projectは、
「国境を越えて幸せを輸出入」をモットーに、
留学生と日本人学生がお互いの文化を共有しながら交流できる場を創る活動を行っています。 これまで、茶道体験やハロウィンパーティー、少林寺拳法体験など、15回以上のイベントを企画しました。
私たちはグループに分かれて活動していて、海外や日本の異文化体験イベントを企画する「イベント運営班」、大学生に限らず子どもや地域の方に向けたワークショップを企画する「ワークショップ班」、岡山県内を旅行しInstagram等を通じて魅力を発信する「Okayama Explores」の3つがあります。
留学生に日本の夏の文化を紹介
――Global Projectを設立した経緯を教えてください。
もともとSDGsに関連づけながら国際系の活動をしたいと思っていて、岡山大学内の活動を探したのですが、見つけられませんでした。そこで、「それなら自分で作ってみよう」と思い立ち上げました。
この活動は、
「異文化に触れてその楽しさを知ってもらう」ことを目的としていて、これまで異文化にあまり関心のなかった学生にも興味を持ってもらえるようなイベントを、学内で身近に開催できたらと考えています。また、「留学生支援ボランティア」に参加した際に、「言語や文化の壁から、授業と寮の往復ばかりで孤立しがちな留学生もいる」という話を聞いたため、裏目的として
「留学生の孤立問題を副次的に解決」できる活動にしたいと思っています。それまで「留学生といえばL-caféに来ている活発な人たち」というイメージを持っており、孤独を感じている留学生の存在を知らなかったので、解決に少しでも貢献できたらいいなと思い、「学内」での活動にこだわっています。
――自ら活動を立ち上げるなんて、素晴らしい行動力ですね。
Global Projectを立ち上げる前に「
Frontier School(SDGsアンバサダーが中心となって立ち上げた活動)」で活動しており、そこで行われた
「メンバーのやりたいことを書き出して、とりあえず企画書を書いてみよう」という取組みがきっかけでした。もともと国際系の活動をしたいという思いがあったため、私はかなり具体的な企画書を作成できました。それを見た、国際分野に興味のあるSDGsアンバサダーたちが「そういう活動を探してた」と賛同してくれたことで、個人のアイデアが団体へと変わりました。
立ち上げメンバーの3人で方針を練り、2024年4月に打ち出したところ、15人ほどが集まってくれました。そして2025年度には、SDGsアンバサダー合同説明会で新歓を行い、現在ではメンバーが60人を超える規模になっています。
立ち上げメンバーの3人で
――一気に増えましたね!Global Projectは「夏祭り」や「茶道体験会」など、様々な企画を主催していますが、そういった企画はどのように考えているのですか?
メンバーみんなで0から考える時間を取っています。ブレインストーミングをしたり、友達の意見を聞きながら「これも面白いんじゃない?」と話し合ったりして、企画を練ることが多いです。たまに行き詰まったり、参加者が少なくなったりすると、Instagramで「どんな企画をしてほしいですか?」と募集することもあります。すると、結構学生からの意見が返ってくるんです 。
また、
他団体と協力することもあります。例えば、Instagramで寄せられた「茶道体験」企画をしようとした際に、自分たちでは茶道のお菓子を用意するくらいしかできなくて。
「茶道を学んだこともないのに、日本の茶道文化を伝えられない」と思い、茶道部に協力をお願いしました。これまでに茶道部や書道部などと連携しましたが、「“THE・日本文化”といった部活だけれど、それを海外の人に紹介する機会は全然ないから、良い体験になった」と言っていただけて、企画したメンバーも何かを得たような表情をしていました。
ミーティングでのアイデア出し
――Global Projectの活動をする中で、楽しかったことは何ですか?
楽しかったことは「交流の場を作れたな」と感じられた時です。 大学院試験のために、ユネスコが提唱した「地球市民教育」の本を読んだことがありました。そこではアイデンティティは、「個人としてのアイデンティティ」、「家族のアイデンティティ」、「日本のアイデンティティ」といったように重層的に重なっていて、それをもっと広げると「地球市民としてのアイデンティティ」があると説明されており、これを持つことができたらSDGsの解決にもつながるんじゃないかと考えられています。 (※地球市民アイデンティティ…地球コミュニティ全体を自分の「仲間うち」として受け止める意識)
その中でも特に
「対話」が重視されていて、とても納得しました。Global Projectの活動でも、主催したイベントを通じて「対話」がたくさん生まれていました。
「このイベントがなかったら、この留学生と日本人学生は出会っていなかったかもしれない」と思うと、そんな出会いや交流の場を私たちの手で創出できたことに、「やってよかったな」と嬉しくなります。
イベントを通して友達に
――反対に、Global Projectの活動をする中で苦労したことは何ですか?
苦労したことは、孤立問題を抱える留学生に情報を届けることです。どうしても、こうしたイベントには「L-cafe」によく来るような、もともと積極的な学生の参加が中心になってしまい、Global Projectが目指している「留学生の孤立解消」という目的には、まだ十分に届いていません。
実際、イベント参加者が常連さんばかりになってしまう回もあります。だからこそ、「アウトドアな学生はピクニックに参加し、インドアな学生は映画鑑賞会に来てくれるんじゃないか」といったように、
どんな学生でも参加したいと思えるものが見つけられることを目指して多様なイベントを用意しています。
また、団体運営にも苦労しました。立ち上げたからには、
メンバーに「Global Projectに入ってよかった」と思ってほしいから、色々考えています。ただ、活動のモチベーションは人によって様々で、例えば「毎週活動があること」を負担に感じる人もいれば、少なすぎると感じる人もいるので、難しいです。Global Projectは基本的には自由参加で、活動日程もメンバーの予定に合わせるなどみんなの意見を優先していますが、今年から急に人数が増えたので、大人数をまとめる難しさを感じています。新メンバーの1年生が、4年生である私に相談しやすいかと言われれば怪しいんですが、「この間のイベントありがとうね」とLINEを送ってみたり、「何かあったら連絡して」と言ったりして、ちょっとでもその子たちの思いをキャッチできるように努力しています。
メンバー親睦会でお互いを知る時間も
苦手だった英語を好きになったきっかけ - 好奇心を原動力に
――山下さんはGlobal Projectの設立や、英語の教員免許取得など、留学生や英語への関心が深いですが、英語を好きになったきっかけは何だったのでしょうか?
実は、中学生の頃は英語が一番苦手な科目だったんです(笑)。
私が通っていた中学校には
「2年生の終わりまでに英検準2級を取得すれば、3年生でオーストラリアに行ける」というプログラムがありました。参加するためにとにかく頑張るしかないと思い、フィリピン人の先生をつけてもらって、スカイプで毎週レッスンをしました。最初のレッスンではカンペを作って読み上げていたんですが、少しずつ会話ができるようになり、無事準2級に合格することができました。
実際にオーストラリアに行ってみると、初めて対面での英会話が成立して、「英語を使えば、こんなに今まで怖いと思っていた外国人と話せるんだ」って感動しました。行く前と比べて
「私がコミュニケーションできる人の幅が増えた」という実感があり、その感覚を子どもたちに伝えたいと思い始めて、それからは英語が好きになりました。
英語が大好きになった日
――興味をすぐに行動に移せる、行動力が凄いですね!
(最近は変わってしまったんですが、)私の
MBTIは「冒険家」で、友達からも「確かに」と言われるくらい、好奇心旺盛で欲張りな性格なんです。
日程さえ合えば、気になるプログラムにはとりあえず全部参加しているかもしれません。「行かなかったら何も得られないけど、行くだけで絶対に何か得られる」と思うので、「なら行っとこう!」という感じです(笑)。
学外にも活動を紹介
――各種プログラムの情報には、どのようにアンテナを張っていますか?
大学からのメールをめっちゃ見ています。あとは、岡山大学グローバル人材育成院などのホームページで、留学関係の情報を定期的に調べています。 大学1年生までは、自分が何かをしようとは考えておらず、ボランティア活動や海外プログラムに「参加」だけしていました。行ってみると学べることがとても多かったです。例えば、
米国務省「重要言語奨学金(CLS)プログラム」に参加して、留学生と日本語だけを使って共同生活をしたことで、日本語教育に興味を持ち始め、今は日本語教育を副専攻しています。このように、
経験がその後の学びにつながるのを自分でも強く実感できたので、もっと挑戦したいと思うようになりました。
その後、「留学生支援ボランティア」やFrontier Schoolでの活動で、
「課題を認識し、それをどう解決するか考える」というプロセスを模擬体験していくうちに、「実際に自分にもできるんじゃないか」という気がしてきて(笑)。これまではプログラムを受動的に受ける側だったのが、今度はGlobal Projectを立ち上げる側に挑戦しました。
CLS学生と日本の伝統を味わう
Global Projectでの学びを活かし、大学院そして未来へ
――Global Projectの活動を通じて、山下さんの中で変化はありましたか?
もともとは、「異文化をみんなに知ってほしい」というような、楽しい側面だけを見ていました。でも、実際にGlobal Projectを立ち上げ、SDGsアンバサダーの一員として活動する中で、
「Global Projectでどんな効果を生み出せるのか」「周囲にどんな影響を与えられるのか」といった視点を持つようになりました。
そうした中、他団体との関わりや、一度だけコンテストに出場する機会もあり、「私たちはこういう活動をしています」と改めて言語化する必要が出てきました。その過程で、「Global Projectの効果や、今後の目的」が自分の中で明確になってきたんです。
そしてこれは個人的な話なんですが、Global Projectを通して得られた「学生が新しい視点を得るきっかけ」が、学校教育にも応用できないかと考えるようになり、今はそれを卒業論文のテーマにしています。
学校現場で実際に試すのはまだ難しいですが、
グローバル化や多様性が進む社会の中で、学校教育に何が求められているのかを、より身近に考えるようになりました。それが、自分の中の大きな変化です。
名古屋のコンテストでglobal賞受賞
――では、Global Projectのメンバーや、周りの変化はありましたか?
1年目は受動的だったメンバーが、2年目になり「イベントリーダーやります」と言ってくれるなど、様変わりしたことです。Global Projectでは、負担が集中したり、アイデアが偏ることを防ぐために、イベントごとにリーダーを変えるようにしています。また、
リーダーを経験することで、ただ作業に携わるだけでなくイベントの意義まで考える立場になってくるので、段階的にGlobal Projectに対する理解を深めてもらえるんじゃないかと思っています。毎回リーダーをしたいメンバーが現れるか不安もありましたが、今のところ「やってみたい」という声が多く、嬉しく感じています。
現在、団体のメンバーは約60人いますが、全員に「留学生の孤立問題解決」という目標が浸透している訳ではなく、多くは「異文化交流って楽しそう」ということに惹かれて参加しています。それが、学年が上がったり、チャレンジしたいというメンバーが出てきた時に、私たちの目標を伝えていきたいです。
大人数なので、全員に想いを伝えきれない懸念はありますが、徐々に伝えていけたらいいかなと思います。
それぞれに想いを持って活動を楽しむメンバー
――代表である山下さんが卒業された後、団体をどう存続させていくのかも重要な問題ですね。
歴史が浅いうちに、代表の私が離れることに不安もありますが、形が変わってもこの団体の存在だけは続いてくれたらと思います。設立から1年ほどで60人ものメンバーが集まったということは、それだけ求めている人がいるんじゃないかと。
来年以降、私がいなくなり、メンバーが変わって形を変えても、目的など大切な部分はしっかりと引き継いでいきたいです。
SDGsアンバサダー合同新歓で仲間探しも
――では、山下さんの卒業後の展望を教えてください。
大学院で「教育開発」を学び、初等教育を十分に受けられない子どもたちにとって、どんな制度なら本当の意味で教育が行き渡るのかを考えたいです。中でもケニアに関心があります。ケニアでは中等教育まで無償化されているんですが、実際にはプリント代や給食費、制服代などがかかります。国としては「授業料無料」と主張していても、貧困層にとっては、その給食費や制服代が払えなくて、結局ドロップアウトしてしまうケースもあります。就学できない子どもの“割合”は確かに減ってきてはいるんですが、ケニアのように子どもの人口が多い国だと、その“少ない割合”の中にも多くの子どもたちが含まれています。だからこそ、早く解決しないといけない問題だと思っています。
今、私はその課題を認識していて、それをどう解決できるのかを考えたいと思っています。これまでは、学内の問題――例えば留学生の孤立や、異文化交流の場づくりなど――身近に感じられるテーマに取り組んできました。大学院では、規模は大きくなるけれど、
Global Projectでやってきた「課題を認識し、それをどう解決するか考える」というプロセスを活かしたいです。また、この大学院で学びたい「教育開発」は、自分が将来やりたいことにも直結しているので、学びをちゃんと将来に繋げていけたら嬉しいです。
――人生に芯が通っていますね。
自分のやりたいことだけを我儘にやってきているので、芯が通っている自信はあります。
「自文化への誇り」を持ち、「異文化」を知る
――話は変わりますが、山下さんは多様性についてどのようにお考えですか?
急速に進むグローバル化の中で、多様性を認めたり、異文化理解を深めたりする一方で、ちょっと怖いのは、多様性という言葉が消えそうなくらい、みんなが同化してしまうのではないかという点です。多様性に富んだ集団って、それぞれが違うからこそ面白いのに、例えば、
もし全員が英語を話す世界になってしまったら、違う言語を聞いたり、異なる言語の人と通じ合うことの楽しさは感じられなくなってしまうと思うんです。だから、
異文化を知ろうとする際には、同時に「自文化への誇り」も持ってほしいです。
多様なメンバーだからこその面白さ
――「異文化」はよく聞く一方、「自文化」はあまり耳にしないですね。その考えにはどうやって行き着いたのですか?
よく、日本の文化に興味を持っている留学生と話すと、「何のアニメが好き?」とか「日本のおすすめは?」って聞かれるんですけど、私はアニメ全くわからなくて。
海外の文化には憧れや興味を持って学ぼうとするのに、自国の文化を深く理解していないことに気づきました。
これに関して、イベントのために「We have a dream」という動画を作成した際には、全員に母語で自分の夢を語ってもらいました。グローバル化というと、「全員が英語で話す」イメージがありますが、もっと母語で話すことに面白みを持ち、これでも発信できるって感じてほしかったからです。Global Projectのメンバーには、異文化を知ることだけが素晴らしいと思うんじゃなくて、「自文化」にも目を向けてほしいです。だから
活動では、留学生が日本の文化を知ると同時に、彼ら自身が自国の文化を紹介する機会も創るよう心がけています。
We have a dreamプロジェクト
――最後にメッセージをお願いします。
最初は「自分が好きな“異文化交流”をみんなにも知ってほしい」という軽い気持ちから始まったアイデアだったので、まさかこれが60人という大規模での活動になると思っていませんでした。学部や学年、留学生の数が増えたことで、これまで思いつかなかったようなアイデアが生まれ、さらにそれを実行できる人数が揃ってくれています。まだ60人体制になってから1、2回しかイベントをしていませんが、回を重ねるごとに、
1人では思いつかなかったような面白いイベントが生まれるんじゃないかと期待しています。
イベントには、「友達が作りたい」という理由で飛び込んで来てくれても嬉しいし、「日本文化を知りたい」や、「留学生の友達がほしい」など、どんな理由で来てくれても大丈夫です。そこで生まれる「会話」が嬉しいので、歓迎していますって伝えたいです。
帰国直前に日本を感じる留学生
――山下さん、ありがとうございました!