2019/08/09

【対談】SDGsの達成に向けた第一歩「つながり」と「らしさ」が私たちの未来をつくる

SDGsの達成に向けた第一歩
「つながり」と「らしさ」が私たちの未来をつくる

  • 岡山大学SDGs推進企画会議 議長 狩野 光伸
  • 大原美術館 大原 あかね氏

SDGsって何だろう?

狩野

岡山大学ではすでにSDGsに関する取り組みを200事例以上行ってきましたが、活動すればするほどにまだまだするべきことがあるなと思うことがたくさんあります。SDGsって17ある目標だけ見るとぼんやりしてしまうし、なかなかみんなが自分の身近なものに感じられていないんですよね。だからまずは「SDGsって何だろう?」っていうところから噛み砕く必要がある。そもそもSDGsが誕生したのは、世界的な一種のパラダイムシフトだと思うんです。

大原

そうですね。世の中の価値観が変わってきた。今まではより大きく、より早くといったわかりやすい目標があって、そこに向かってみんなが競い合ってきました。だけど今は、それもある程度行きついて限界が見えてきた。じゃあここから先はどこに私たちの持っている力を注いだら幸せになれるんだろうと考えたときに、お金ではないよね、と。それぞれが自分たちの利益を追うだけでは、自分もまわりも幸せにはなれない時代がやってきたと気づいたわけです。その結果として、「私たちが私たちであり続けるために、何をしたら良いかを考えていこう」というのが、SDGsではないかと思うんです。

狩野

「近い目線」で物事をとらえて世の中を便利にしたい一心で駆け抜けてきた時代から、「遠い目線」で次世代のことまで目を向けて今を考えられるような必要に目が向く時代になってきた、ということなのかなと思います。未来のために、今をどう生きるべきか、と。そうして生まれた目標がSDGsとして国連でまとめられたわけです。

大原

私たち一人ひとりの余力をどう活かしていくか、その新しい使い道がSDGsによって見つかった。本来はそういうものですよね。

狩野

ただ、SDGsという共通目標ができたのはほんのスタートにすぎないのかなと思います。課題をとりまとめて啓発するのは簡単だけど、実際にどう行動するか。これが一番難しいんです。大きな目標だからこそ、どこか自分とは遠いもののように見えてしまう。例えば、高校生に「三角関数って何ですか?」と質問されたら、普段の生活とギャップがあると感じるかもしれませんね。同じように「SDGsって何ですか?」と問われたときにどんなことを伝えたら「SDGsは一人ひとりの身近な課題の中に転がっている」ということに気づいてもらえるか。これこそが、次の一歩を導くためのとても大事なポイントだと思うんです。

大原

私もそう思います。SDGsを自分ごとに落とし込んだときに、はじめて自分たちに何ができるかということを主体的に考えられるようになる。行動が変わってくる。自分の身近なところから何か一つでも社会課題を解決するというのは非常に健康的なことで、子どもたちにとっても自分と世界をつなげられる良いツールになると感じています。

キーワードは、「つながり」と「生きようとする力」

狩野

実際にSDGsに向けて何か行動を起こそうと思ったら、次に出てくるのは「どんなつながりを持てるか」ということでしょうか。

大原

一人ではできないことですからね。自分のいるフィールドだけでは解決できない。それぞれ持っているものを活用しあうことが大きな力になりますから。

狩野

私たちのような学者や研究者の場合だと、今の制度化されたアカデミズムの世界ではなかなか専門領域から飛び出すことが難しいということがあるかなと思います。論文の書きやすいテーマに偏らざるを得ないこともあります。でも、学者のような探求する仕事の人たちこそ、目線を少しでも違うところに向けることができたり、垣根を超えることができれば、世の中に還元できることがまた変わってくると思うんですよね。自分の専門として道を究める方法は、いろいろあるかもしれないですよ、という伝え方ができたらと。

大原

今まで掘ってきた道を同じように掘り続けることを次の世代に強要するのではなくて、違うところを掘っていくことを許容する。そうして掘っていった先が自分の専門領域を超えるのであれば、そことつながっていくことも許容していく。それが、SDGsに挙げられているような私たちがまだ解決できていない課題を解決するために必要なことだと私も思います。

狩野

同じような志を持つ人たちがつながって力を合わせたり、多様性を持てることがすごく大事だと思うんです。枠にはまらない考えを持っていたり、頑張ろうとしている人たちをもっと元気づけられたらと思います。この岡山大学のSDGsの取り組みが、それを上手に表現できる良いきっかけになればと思っているんです。ただ、科学の世界ではこれがなかなか難しい…。芸術の世界もそうかと思うんですが、何かを究めようと思うと、いま力があると思われている「基準」での審査に通らないと認められない。新しいものはいつも理解されにくい。だからどうしても、「今認められている方法」に縛られてしまう。

大原

そうですよね。でも、役に立つと今認められているものしか研究させてもらえなくなるのは嫌ですよね。今の基準では認められていない「役に立たないもの」をどれだけやっているかが大学の価値だと私は思うんです。現実問題としては難しいかもしれないけど、自由に物事に取り組んで10人の中で1人すごい発見に辿りつけば良い。そのくらいの柔軟さというか、大きな器が新たな可能性を育てるんじゃないでしょうか。
少し別の角度から話をしますと、人には「生きる力」と「生きようとする力」があると思うんですよね。「生きる力」を支えるのは、医療や食物といった生命に直結するもの。「生きようとする力」を支えるのは、あたたかい食事だったり、音楽やスポーツ、芸術や文化だと思うんです。その「生きようとする力」の価値って、それ自体では命を救えないけれど、あることで活力になること。先ほどの言葉を使えば、「役に立たないもの」とも言えてしまいますね。でもその「役に立たないもの」があることで、人は元気になるんです。エネルギーがわくんです。大学という枠組みの中では、「広く世の中に役に立つもの」とすでに認められているものに取り組んでいかなければいけない。そういう制約が中からも外からもありますよね。でも、大学が元気であるためには、「役に立たないもの」にも寛大であるべきだと思うんですよね。

狩野

若い人たちの自由な発想や取り組みを、「それ、いいよね。やってごらんよ!」と応援できる環境って本当に大事だと思います。たくさん議論してきましたが、大原さんの言葉をお借りするとSDGsの枠組みそのものは「生きる力」ですが、そこに「生きようとする力」という発想をどのように今の体制に整合性を取りながらやっていくか。その動きを表現する活動にしていきたいものです。

それぞれの「らしさ」が、SDGsの本当の力になる

大原

SDGsを考えるうえで「らしさ」というものも大事になってきますよね。岡山大学らしさ。岡山市らしさ。日本らしさ。アメリカらしさ。それぞれのらしさがあるから、同じゴールだけど登る道が違ったり使う道具が変わってきて、それが面白さや多様性を生むと思うんです。
「らしさ」があることによってそれぞれのSDGsに違いが出てきて。だからこそ、意味があるというか。

狩野

岡山大学でSDGsの取り組みをはじめてみたのも、その「らしさ」に可能性を感じたからというところはあります。岡山大学には地域と接しながら研究をする基盤もすごくしっかりあって、SDGsという観点から見るととても優れた環境だと思ったんです。ただ、これを「岡山大学らしさ」といえるかは、もう少し合意が必要かもしれません。そういう意味では、大原家という祖先からの流れを持つ方から見て、「らしさ」とはどういったものなんでしょうか

大原

「らしさ」にもいろいろな「らしさ」があると思うんですが、私の育った倉敷の「らしさ」のひとつは、若い人の力を信じたということだと思います。私の曽祖父である大原孫三郎の父・孝四郎が倉敷紡績を創ったのは、若者たちからの提言があったから。彼らの想いを受けとめ、若者の力に投資して紡績工場を開設したんです。それが孫三郎にも受け継がれ、留学を支援したり、彼らが海外から学んで帰ってくると一緒に街をつくったり。それを上の世代が許したんですよね。若い人たちの力を信じて、若い人たちのもつ素材を伸ばして育てていくという考えを非常に大事にしてきました。「教育県岡山」と言われる意味も、もしかしたら岡山県一帯にこうした若い人を育てるという思いがあるからかもしれませんね。教育というのは岡山の「らしさ」であって、岡山大学が他の大学に先駆けてSDGsという考え方を行動に移したのも、「教育県岡山」だからこそなんじゃないでしょうか。

狩野

若い人を大事にするというのは、確かに岡山大学にも通じるところがありますね。私のような世代の者が大学執行部に関われたり、若めの世代の人たちを集めて「言いたいことを言ってより良くしていこうよ」という会議が成立したりしました。国立大学としてはかなり珍しいのではと思います。これは「岡山大学らしさ」かなと思いますね。SDGsを大事にしようという考えは未来を大事にしようというものですし、近いものを感じます。もうひとつ「らしさ」を噛み砕いてお伺いしたいのが、SDGsと研究の関係性。SDGsから発想した研究をしてみたいけれども、一歩踏み出すのを躊躇しているような人たちをどうすれば支えられるか。大原家の場合は、どうされていたんですか?

大原

かなり反対もあった中でしたが、孫三郎の頭の中には、課題を根本的に解決すること自体が、自分の企業や自分の小作人たちの持続可能性につながると思っていたのかもしれないです。目先の利益のためではなく、少し遠くの利益のために行動するという信念ですね。

狩野

その想いに応えた学者がいたから研究所として成り立ったということですね。そういた方とはどうやって出会われたんでしょうか?

大原

外とのつながりですね。孫三郎の妻・スエ子は「さつき会」という女性たちが学ぶ会を作って、そこで講演会を開いていたんですが、会を通じて大阪や東京の先生とのつながりが生まれました。外とのつながりを開けば、そこからさらにつながりは広がっていきますからね。大学ももっともっと外に出ていきましょうよ。自分の持っているものを出して化学反応を起こしたいと思っている人が集まれば、絶対そこには大きな力が生まれます。その場には評価は必要なくて、今の評価軸では結果が出ていない人がいたとしても、活動を続ければ後々芽が出るかもしれない。みんなが自分の力を150%発揮できるような、頑張ることが居心地のいい場を作り続けていかないといけないなと私は思います。

狩野

本当にそういう場が必要だなと思います。大学だけでできることももちろんありますが、外とつながっていないとできないものもたくさんあります。それが、「生きるために不可欠なもの」ではなく、「生きたくなる」ようなものにつながっていくんだよということでしょうね。

大原

あともうひとつ重要なのは、応援団ですね。学問にとっても芸術にとっても、どれだけあたたかい応援団が周りにいるかがとても大切。あたたかい応援のある場所がいつも希望の場所になると信じ続けて、ひたすら応援してくれる人たちが地域にたくさんいるということが大学にとって必要なことかもしれないですね。

狩野

そうですね。岡山はそういう意味でも、SDGsを進めていきやすい環境かと思います。地域とつながっているという実感がすごくある。地域の力も大きいですし。都会過ぎると目的のために動かないといけないけれど、岡山はそれに比べて「遊び」を持つことができますね。岡山の「らしさ」を信じて、岡山らしいSDGsの輪を広げていく。それが世界全体のSDGsの役に立てたら、何かひとつ参考にしてもらえるものにできたら、と思います。

教室を超えた学習:津山アイデアソンを経て地域とできるSDGsを考える。